植田正治写真美術館

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2004年、出雲大社に初詣しての帰路、米子からタクシーで大山の麓に鎮守さながらに佇む植田正治写真美術館(設計:高松伸)を訪ねました。雪が降り積もる中、「個人美術館に、これほど広大な空間を与えるのは贅沢すぎ!」と思いましたが、内部には清潔な天衣無縫がいっぱい詰まっていて直ぐに納得させられました。特に、外界との協調関係で成り立っている空間構成にも魅了されます。喫茶コーナーもお洒落で気に入りましたが、3階の石庭に至るドアを開けた瞬間に目に飛び込んでくる情景は、きっと記憶に残るでしょう。

館内で最初に案内される「逆さ大山」を映し出す映像展示室に使われているレンズは、ベス単と同じ機構のレンズを発売していた事のある株式会社 清原光学が製作したそうです。「ベス単写真帖・白い風」(1981)を発表した頃に植田さんと一緒に山陰を歩かれた方に教えていただきました。

館主・植田正治さんは、残念ながら故人となられましたが、優秀な学芸員に恵まれているようで、いつまでも素敵であり続けてくれるに違いない。それにしても、こうした施設が完成するまでには、さまざまな紆余曲折があったことでしょう。この仕事に関わられた全ての人々に感謝を捧げたいと思いました。

企画展:ボクのスタジオ
    植田正治の砂丘
会 期:2021年7月17日(土)~11月29日(月)
    9:00〜17:00(入館は閉館30分前まで)
    火曜日は休館(祝日の場合は、翌日)
入館料:1,000円(一般)
会 場:植田正治写真美術館
    鳥取県西伯郡伯耆町須村353-3
    0859-39-8000

「砂丘は巨大なホリゾントだ」——— これは植田正治が生前、しばしば口にしていた言葉です。ホリゾントは、スタジオ撮影でプロのカメラマンが使用する背景のことを指します。戦前から植田は、近所の弓ヶ浜で、また戦後間もなく鳥取砂丘で後に代表作となる作品の数々を撮影し、その後もたびたび砂浜や砂丘で撮影を重ねています。海や空や雲と同様に、この「巨大なホリゾント」は植田の写真にとって重要な要素であり、同時に、自由に表現や空想の羽を広げ、羽ばたくことのできた貴重な「場」、まさに「ボクのスタジオ」であったのでしょう。

この “スタジオ” を舞台にした植田の演出写真が注目されたのは、1949年に弓ヶ浜で撮影された一連の家族写真であり、それに続く鳥取砂丘での群像演出写真でした。その後、リアリズム写真の台頭により、全く別の表現の模索を続け、1980年代はじめ、ファッション写真のジャンルで、再び「天然のスタジオ」鳥取砂丘で演出写真を展開するのです。それぞれに全く異なる意図で撮影された写真ですが、植田の個性と遊び心に満ちた植田らしい作品の数々です。非日常的な空間、遠近感の喪失など、この“スタジオ”でしか創作できないイメージの特質が植田のスタイルの個性を際立たせていると言っても過言ではないでしょう。

今回の展覧会では、あらためて植田の「砂丘」や「砂浜」に注目し、代表作を中心に、1950年代に多く見られる「砂丘」の表情や造形に着目した作品、さらにはシリーズ〈小さい伝記〉や〈風景の光景〉の中にも登場する「砂浜」もあわせて紹介します。時代や表現意図も異なる様々な作品を通して、植田にとっての「砂丘」や「砂浜」の意味をあらためて考える良い機会となることでしょう。

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