植田正治写真美術館

  • ブックマーク

2004年、出雲大社に初詣しての帰路、米子からタクシーで大山の麓に鎮守さながらに佇む植田正治写真美術館(設計:高松伸)を訪ねました。雪が降り積もる中、「個人美術館に、これほど広大な空間を与えるのは贅沢すぎ!」と思いましたが、内部には清潔な天衣無縫がいっぱい詰まっていて直ぐに納得させられました。特に、外界との協調関係で成り立っている空間構成にも魅了されます。喫茶コーナーもお洒落で気に入りましたが、3階の石庭に至るドアを開けた瞬間に目に飛び込んでくる情景は、きっと記憶に残るでしょう。

館内で最初に案内される「逆さ大山」を映し出す映像展示室に使われているレンズは、ベス単と同じ機構のレンズを発売していた事のある株式会社 清原光学が製作したそうです。「ベス単写真帖・白い風」(1981)を発表した頃に植田さんと一緒に山陰を歩かれた方に教えていただきました。

館主・植田正治さんは、残念ながら故人となられましたが、優秀な学芸員に恵まれているようで、いつまでも素敵であり続けてくれるに違いない。それにしても、こうした施設が完成するまでには、さまざまな紆余曲折があったことでしょう。この仕事に関わられた全ての人々に感謝を捧げたいと思いました。

企画展:空想の羽
    植田正治の静物
会 期:2021年3月1日(日)~7月12日(日)
    9:00〜17:00(入館は閉館30分前まで)
    火曜日は休館(祝日の場合は、翌日)
入館料:1,000円(一般)
会 場:植田正治写真美術館
    鳥取県西伯郡伯耆町須村353-3
    0859-39-8000

どんな家庭にも、ちょっとした小物があるはずです。外の世界で撮ったなにげない光景に二重にはめこむ作業も面白いし、空想の羽を一杯にひろげていろいろと実験することです。植田正治がいわゆる静物写真を熱心に創作していた時期の言葉です。静物は、西洋絵画のひとつのジャンルですが、写真においても静物といえる作品を多くの写真家が手がけています。絵画においては、もともと対象を緻密に描くところから始まっていますが、写真においては、写真家の個性や力がより試されるジャンルといえます。

植田も写真を始めた戦前から、さまざまな静物写真を試みています。その中でもシリーズ〈幻視遊間〉(1987〜1992)をはじめとする作品群は、植田の静物写真の集大成といえます。被写体を自由な発想で捉えつつ、多重露光をはじめ多彩なアレンジを加え構成したこれらの作品は、まさに植田が「空想の羽」を一杯にひろげ、試行錯誤を重ねた成果といえるでしょう。なにげない身のまわりのモノが、植田にまるで魔法をかけられたかのように、非日常的で非現実的なオブジェへと変化し、不思議な魅力と輝きを放つのです。

今回は、晩年のカラーの静物写真を中心に、戦前の作品、1950年代のシリーズ〈かたち〉、その他多彩なモノクロームの静物写真も紹介します。植田の自由な空想の羽ばたき、そして実験精神を感じていただけることでしょう。

この記事を書いた人