葬儀無料の街

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葬祭具の貸し出し、霊柩車、安置所、告別式場の使用料、火葬費用などが全て無料という、とてもユニークな制度を設けている自治体があります。岡山県の南端に位置し、瀬戸内海の温暖な気候に恵まれた玉野市では、昭和25年(1950)に仏壇を低料金で貸し出す制度を開始、その後、貸し出しは、葬祭具、霊柩車、安置所、告別式場、火葬費用などもにも及び、ついに昭和48年(1973)、「市勢の発展に貢献のあった人の霊を弔うのに市の施設を無料で提供するのは当然」という市長の議会での一声以来、葬儀費用は、完全無料化(葬祭費無料制度について)となっています。その当時の玉野市は、四国との玄関口として宇高連絡船が宇野港を発着し、活気に溢れ、三井造船の企業城下町としてわが世の春を謳歌していました。一般会計予算額が47億6,530万円と、前年比27.2%という驚異的な伸び率を記録、ドル箱・競輪事業からの副収入も年間9億円以上と、周辺の市町村からも羨ましがられるほどでした。

一方、世間は、円が変動相場制に移行したばかりで、大手商社が貿易を支配、商品の買い占めや投機による暴利で摘発されたり、日本列島改造論による土地開発ブームで土地成金がぞくぞくと誕生していた時代。企業は、増収増益を記録していますが、景気はかなり過熱気味で、物価の値上がりで市民の台所は苦しくなるばかりでした。大量生産、大量消費、大量廃棄の悪循環は、空や海を汚染、光化学スモッグの発生など公害が深刻化していると新聞は伝えています。国の施策も、このころから経済優先から環境保全や福祉にシフトしていて、各自治体でも、老人、乳幼児・児童、身障者、低所得者への各種手当・無料サービス、病院など施設の充実が図られています。

子供の教育費から医療費、老後の生活費まで心配ごとが尽きない今日、この葬儀費用無料サービスは、今も市民からは好評を博しています。全国的にもユニークな制度ですし、他の宗教儀式にも対応しながら存続させればそれなりに意義があるように思います。現在、同じような制度を目指す自治体も少なくなようですが、「官業が民業を圧迫する構図」を崩せず、いずれも完全無料化には至っていないようです。2005年、玉野市では、葬祭・斎場の老朽化による立て直し計画が持ち上がっています。完成後の施設利用に関しては、一部有料化になりそうです。

2012年8月、宇野港沖で鎖骨した故人を偲ぶクルーズを催行しました

縄文人は、死者を葬る洞窟の入り口に野の花を手向けたと言われますが、葬儀とは、人々のどのような意識の中で育まれてきたのでしょう。瀬戸内海の本島の旧家では、庭の一角に墓地が設けられており、ご先祖さまと一体となった暮らしがありました。墓の周辺では、野菜や花を育てられていて、霊前には、いつも新鮮な花がありました。その一方、都会では、今も山を切り崩して続々と墓地が造成されている。僕は、そうした情景に出会う度に、葬送とは、墓地とは、暮らしとは、何なのかと考えさせられます。キャッチ画像は、葬送の自由をすすめる会の中国支部から招かれて「葬儀無料の街・玉野市」をテーマに講演した際のものです。

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