投入堂

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古来より人々は、海や山などの身近な大自然に対して崇敬の念を抱いてきたようで、神話の世界でも山の神は狩猟、農耕を司るものとして崇め祀ったと語られています。そして、山上を祖霊との接触の霊山、聖地と考えた山岳信仰は、吉野の金峯山寺などの聖地を各地に生み出しました。

鳥取県・三徳山の麓から中腹に境内がある三仏寺も霊験のある法を修める籠山の1つですが、ここには修験道の開祖・役行者(役小角)が法力で建物ごと平地から投げ入れたと語り継がれている有名な国宝・投入堂(なげいれどう)があります。本堂から奥の院へ至る行場を木の根にしがみつくようによじ登ること約1時間。眼前に突然現れる投入堂との邂逅はやはり格別です。わくわく、うきうき、どきどき、そして、びっくり!

この投入堂の建立は、平安時代後期(1086〜1184)と発表されました。1903年に岡倉天心らが国宝調査のために訪れた日記には、当時は朱塗りだったかもしれないという記述があるそうです。今回、三仏寺は、3年計画で修復され平安時代作と考えられている国内最古級の木造・蔵王権現立像が開山1300年を記念して7月18日から本堂で公開されます。同時に、キリンビールから「三徳山ラベル」のラガービールが限定発売されるのは、ご愛敬ですが(笑・2006年7月12日、追記)。

2007年8月22日、三仏寺から開山1300年記念行事として約60年振りに投入堂特別拝観を認めるとの発表がありました。実施日は、2007年11月中旬(混乱防止のため日時は非公開)。応募対象は18歳以上、締め切りは9月1日。当日は、住職とともにお堂に入り法要に参列出来ますが、「この拝観は、岩のすき間に手を掛けて登るロック・クライミングのようなもの。心して来ていただきたい」との広報がありました。

ところで、1665年に徳川幕府が定めた寺院法度は、その意図とは逆に真の仏教精神を求めようとする多くの在野僧を生んだようです。日本各地を遊歩した木喰上人(1718〜1810)もそうした修行僧の一人で、後の日本美術史上に豊かな実りをもたらす秀作を残しました。木喰とは、米や豆などの五穀を絶ち、水に溶いたそば粉や木の実、草などを食料とし火食でなく生食しながら修行を重ね、それを守り通した者を上人です。

木喰明満は、甲斐国西八代郡古関村丸畑(現・山梨県下部町丸畑)に生まれ22歳で仏門に入り常陸国茨城郡塩子村(現・茨城県東茨城郡城里町塩子)の仏国寺住持・木食観海上人から木食戒を授けられ、1773年から日本廻国修行を開始しています。1806年10月に丹波国諸畑(現・南丹市八木町諸畑)の清源寺を訪問した時の様子を当時の和尚は次のようにと書き留めています。

「容貌を視るに顔色憔悴して、シュク髪雪の如くシロし、乱毛螺の如く垂る、身の丈6尺なり、壊色の衣を著、錫をもつて来り立つ、異形の物色謂ひつ可からず、実に僧に似て僧に非ず、俗に似て俗に非ず、変化の人かと思ひ、狂者の惑ふかと疑ふ」

柳 宗悦・著 「木喰上人」より
左:エンマ十王尊(東光寺) 右:阿氏多尊者像(清源寺)

バーナードリーチ、濱田庄司らと民藝運動を協創した思想家・柳 宗悦(1889〜1961)は、彼独自の直感でそれまで世間から見向きもせらず見捨てられていた朝鮮陶磁、木喰仏、日本の民藝などに次々と美を見い出します。

「直観とは文字が示唆する通り『直ちに観る』意味である。美しさへの理解にとっては、どうしてもこの直観が必要なのである。知識だけでは美しさの中核に触れることが出来ない。何の色眼鏡をも通さずして、ものそのものを直に見届ける事である」

柳 宗悦・著 「直観について」より

木喰上人が日本廻国修行の際に逗留していた清源寺で、89歳の時に制作した最も卓越した微笑仏がここの羅漢堂に揃っている。特に、阿氏多尊者像を初めとする十六羅漢像は、他に現存していないそうです。河井寛次郎の初期作品も、ここではオマケのように感じました。衆生を病苦から救う微笑仏。拝観料は、寸志(要予約)。

猪名川町の東光寺は、木喰のエンマ十王尊などの彫像群を安置していることで有名。木喰が当地に逗留していたのは、1807年のわずか4カ月ほどのことに過ぎなのですが、90歳の時に彫られた26体の木喰仏(その内、東光寺に15体)こそ、長年の研鑽が見事に結実されたものであること示しています。拝観料は、寸志(要予約)・・・参考サイト:猪名川町の木喰仏

木喰の かたみのふでもな 無阿弥だ かへすがえすも 南無阿弥陀仏

こちらは、四季折々の投入堂を捉えた池本喜巳さんの写真集・三徳山 三仏寺。積雪をかき分けながらの撮影山行を、まるで五体投地のようだったと笑って振り返えっておられますが、それは並大抵の苦労ではなかったと思って写真を眺めていると、それら一枚一枚が池本さんの会心の笑顔そのもののようにも思えて感動しちゃいました。自分が評価するのも失礼な話ですが、良い仕事だと思います。

展覧会:池本喜巳・写真展(終了)
    ジェームスの島 ROTA
会 期:2019年9月18日(水)〜10月19日(土)
    11:00〜19:00
会 場:ブルームギャラリー
    大阪市淀川区新北野1-11-23 ハイム北野B103
    06-6829-6937

鳥取出身の池本喜巳(1944〜) は、現在も鳥取をベースに山陰の記録を撮り続ける写真家です。これまで多くの作品を展示発表しており、代表作として昭和の時代を色濃く残す個人商店を約40年間撮影した「近世店屋考」、山陰の風景を撮影した「そでふれあうも」などがありますが、同時並行で多くのシリーズを撮ってきました。

池本作品の魅力は、圧倒的な撮影量と既成概念にとらわれない実験的な写真表現にあります。ブルームギャラリーでは、本展を皮切りに、3ヶ月に1度のペースで池本作品のビンテージプリントを紹介する中で、写真家 池本喜巳の幅広い写真表現に焦点を当てていきたいと考えます。 
  
第1回目に紹介するのはサイパンとグアムのほぼ中間に位置する小さな島ロタ島で撮影した「ジェームスの島」シリーズ。本シリーズは、1993年にニコンサロン銀座とニコンサロン大阪で展示をしたもので、本展では、80点以上の作品の中からセレクトした作品を展示いたします。

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